頭痛とは
-
頭痛には大きく分けて、他に頭痛を起こす病気がなく、頭痛そのものが病気という一次性頭痛とくも膜下出血や髄膜炎など、他の病気の症状の一つとして現われる二次性頭痛があります。
頭痛の多くは片頭痛、緊張型頭痛などの一次性頭痛です。全国疫学調査では15歳以上の日本人における有病率は片頭痛が8.4%、緊張型頭痛が22.4%ですので、日本には片頭痛を持つ人は840万人、緊張型頭痛を持つ人は2200万人以上いることになります。
このように緊張型頭痛がいちばん多いのですが、頭痛外来を受診なさる患者さんの多くは片頭痛を持つ方々です。なぜなら、片頭痛は生活への支障が高い疾患だからです。
片頭痛ってどんな病気?
片頭痛は、一般的にはずきんずきんと脈打つような痛みで、動くと痛みが強くなるのが特徴です。頭痛に伴って、光・音を煩わしく感じ、吐き気がしたり吐いたりすることもあります。“片”頭痛と書きますが、両側に痛みが起こる人も40%ほどいます。痛み止めの薬を飲まなかったり、または効果がない場合には頭痛は4時間から72時間続きます。また、片頭痛を持つ人の10~30%に、眼の前にギザギザが見えるなどの前兆を伴うことがあります。片頭痛は20~40代の女性に多く、月経前から月経中に頭痛が起こりやすいため、PMSや月経痛と思い、市販薬で対処している方も大勢います。
片頭痛の問題点
① そもそも患者さんは困っていても受診しない
片頭痛はかなりつらい痛みで光・音過敏や吐き気を伴うため生活に支障をきたすことが多い疾患です。しかし、日本人は我慢強い国民性のためか、70~80%の人は医療機関を受診していません。市販薬を飲めば何とかなる、寝れば治る、頭痛はだれにでもある、と思っていることが多いのですが、“何とかなる”ということはどこかで我慢している、無理をしている、ということです。またどこを受診してよいかわからない、という方もいます。
② 受診しても的確な診断と適切な治療に結び付かない
残念ながら、意を決して受診したのに、頭のCTやMRIの検査を受け、“異常ありません”で終わってしまった方、肩こりがあるため“緊張型頭痛”と診断され適切な治療に結び付かない患者さんもいます。もちろんMRIなどで脳に重大な病気がないことを確認することは重要ですが、片頭痛や緊張型頭痛に悩む患者さんにとっては、ではどのように頭痛を改善させていくか、という次のステップにつなげることが必要となります。
③ 片頭痛治療の情報が届いていない
片頭痛が起きた時に使用するトリプタンという薬が日本で使えるようになって20年経っていますが、片頭痛患者さん約17000例の調査では、市販薬を使用したことがある人は80%ですが、今までトリプタンを使用したことがある人は20%ほどです。また、片頭痛頻度が高い人では予防薬といって片頭痛の頻度を減らす治療法がありますが、今まで使用したことがある人は10%ほどとなります。
これらのことは、片頭痛に治療法がある、という重要な情報が患者さんに届いていないということも一因と考えられます。
片頭痛治療は新しい時代に入った
2021年に片頭痛を予防する画期的な治療薬が日本でも使えるようになりました。CGRP関連抗体薬といって、CGRPという片頭痛の痛みを起こすと考えられている神経伝達物質の働きを抑える作用のある注射薬です。現在日本ではガルカネズマブ(エムガルティ)、フレマネズマブ(アジョビ)、エレヌマブ(アイモビーグ)という3種類の注射薬があります。いずれも月に1回皮下注射をしていきます。今までの経口予防薬で効果がみられなかった患者さんでも効果がみられることが多く、注射を始めた患者さんからは、“頭痛がない生活がこんなに快適だったと数十年ぶりに気づいた”、“頭痛のことを気にしなくなった”、“友人や家族との約束を頭痛のためにキャンセルしなくてもよくなった”、“今日もまた頭痛が起こるのではないか、という不安感がなくなった”などのお声を聞くことが多いです。もちろん、医学は100%ということはないので、効果の見られない患者さんも10%ほどはいると考えられていますが、片頭痛日数が半分以下になる人は40~50%ほどいらっしゃるので、試してみる価値は十分あります。
また、2022年からは片頭痛が起きた時に使用するラスミジタン(レイボー)という薬も使えるようになりました。実はトリプタンは血管を縮める作用があるため脳梗塞や狭心症など血管の病気がある患者さんには使用することができません。ラスミジタンは血管を縮める作用がないので、今までトリプタンを使用できなかった患者さんにも使うことができます。
皆様にお伝えしたいこと
片頭痛の治療は進んでいます。“仕方がない”とあきらめていた方、“頭痛くらいで受診してもよいのかしら”とためらっていた方、あなたが少しでも頭痛でお困りであれば是非頭痛専門医を受診なさってください。特に、週に2日は痛み止めやトリプタンなどを服用している方は早めの受診をお勧めします。
あなたの日常がより快適になりますように。