ドクターコラム 健康で安全な旅行のために

渡航外来 原 恵理子

2024年10月24日掲載
  • 健康で安全な旅行のイメージ
  • 「海外旅行前にトラベルクリニック?何のために?」
    と思われる方がいらっしゃるでしょう。
    海外旅行や海外出張・赴任が日常的になった近年、様々な調査で日本人の 「渡航先での健康問題に対する意識」が全体的に乏しいといわれています。
    (2003年に欧州の空港で行われた調査で、約半数が「出国前にトラベルクリニックなどで健康指導を受けたと回答し、同様の調査で日本ではわずか2%でした」)

世界には日本ではなじみのない病気がたくさんあります。海外旅行では、「時差・気候・生活リズムの違い」などからさまざまにストレスを受け、免疫力も下がりがちになります。病気にかかりやすくなり、中には命の危険があったり、生涯にわたり治療を続ける必要がある病気も存在します。

避けられる危険は避けて、楽しい旅行となるように、事前に準備をして出かけましょう。

以下に海外で注意すべき感染症の一部を表にしています。皆さんはいくつご存じでしょうか。

海外でかかりやすい感染症

感染源 生活上の注意 病気 主な流行地 予防接種
食べ物や水 ミネラルウォーターを飲む
加熱した料理を食べる
E型肝炎 世界各地
A型肝炎 主に途上国・新興国
赤痢 主に途上国・新興国
コレラ 主に途上国・新興国 〇(輸入)
腸チフス 主に途上国・新興国 〇(輸入)
怪我・事故 転倒や怪我に注意する 破傷風 世界各地
蚊が媒介 蚊に刺されないように工夫する
(服・虫よけ・殺虫)
マラリア 熱帯・亜熱帯地域 予防薬(内服)
デング熱 熱帯・亜熱帯地域 (海外のみ)
日本脳炎 アジア
黄熱 アフリカ・中南米
ダニが媒介 ダニ媒介脳炎 欧州・ロシア・アジア 〇(輸入)
ノミが媒介 ペスト 主にアフリカ・南米
飛沫など ・手洗いとうがい
・人込みを避ける
結核 主に途上国・新興国
髄膜炎菌髄膜炎 西アフリカなど
インフルエンザ 全世界(冬季・雨季)
動物から 動物に近づかない 狂犬病 世界各地(特にアフリカ・アジア)
ラクダに接触しない MERS 中東
ヒトから 抗体がない場合は流行地に行かない(空気感染) 麻疹 世界各地(特にアジア・アフリカ・欧州)
(MRワクチン)
手洗いうがい 風疹 世界各地(特にアジア・アフリカ)
よく手を洗う ポリオ 世界各地(特に中東・アフリカ)
淡水の池・湖・川 淡水で水浴びしない レプトスピラ症 世界各地
住血吸虫症 アジア・アフリカ・中南米など
性交渉 よく知らない相手との性交渉を避ける B型肝炎 アジア・アフリカ・南米
梅毒 全世界(特に途上国・新興国)
HIV感染症 全世界(特に途上国・新興国)

(注)
他にもまだまだありますが、主なもの(輸入感染症として例年感染者が見つかっているもの)をあげています。

  1. 国内で流行が見られないため、輸入ワクチンしかないものもありますが、近年渡航者の増加を受け、国内承認ワクチンが増えています(ダニ媒介脳炎、腸チフスのワクチンは承認され、発売を待つ状態です)。
  2. 麻疹風疹は現在単独ワクチンではなく混合ワクチンMRとして流通しています。
  3. デング熱ワクチンは製造方法が国内で認められていないため(カルタヘナ法)、国内で接種はできません。
  4. BCGは乳幼児の結核発症と重症化予防をするもので、大人に結核の感染予防効果はありません。

海外渡航が増加している近年、輸入感染症といわれる、帰国後に感染症を発症する数も増加しています。渡航先で気をつけるべき病気や、危険な目に合わないための安全情報を事前に入手してリスクを避けておきましょう。

予防接種で防げる感染症は、事前に予防接種を受けることもよい方法です。予防接種を受けないまたは予防接種がない場合は、どうやってリスクを避ければよいのかを知りましょう。

  • 健康で安全な旅行のイメージ
  • 途上国や新興国ばかりではありません。先進国でも散発的に感染症が見つかって、WHOが注意喚起をしていることもあります。特にポリオの追加接種の推奨は、現在、英国や米国にたいしても発令されていますし、英国では今年に入ってから2000例以上の麻疹発症を認めています。

    元気に出かけて元気に帰国、よい思い出を残すように、ぜひ事前に準備をしてお出かけください。トラベルクリニックでお待ちしております。

(トラベルクリニック(渡航外来)とは):
海外へ出かける方のため、渡航先の感染症情報、安全情報、医療情報の提供や必要な予防接種や予防薬の処方、各種医療情報の英訳などを行うところ